海の英雄号
以前【マーメイド号】の記事を紹介したところ
『こんな奇跡話をシリーズ化して下さい!』と、あるお方に言われました。
そういったご意見は凄くありがたいですし
コラムの内容も「どこどこで演奏しました」とか「今日は機材の紹介です」とか
そんなつまらないものばかり書いていてもしょうがないのです。。。
と言ってみても
奇跡話はそうそう転がっていないから奇跡なわけで。
個人的にはシリーズ化したいですけどね。
しかし!見つけましたよ!
世界は広い!
人類の歴史は長い!
情報化社会は素晴らしいですね。
【奇跡の話 第2弾】はじまりはじまり!
時は1988年5月4日 午前8時。
場所はブラジル。
ブラジルの砲艦[アラグリア号]の水兵が、海上に漂う小さな瓶を発見した所からこの物語は始まる。
小瓶には小さな紙切れが入っていた。
なにやら英語で書いてあるようなのだが、水兵は英語が読めない。
そこで、英語を得意とする艦長に読んでもらう事にした。
コスタ艦長は海軍のエリートである。
英語を読むなぞ容易い事なのだ。
ちなみに、只今、デジャブというお店でポルトガル語講座を行っている。
ポルトガル語の書かれた紙が小瓶に詰められ、流れてくる前に、一度勉強しておいても良いかもしれない。
話を戻そう。
その紙に書かれていた文章とは。。。
【船で反乱が起きた。私は彼らに殺されるかもしれない。
船長も一等航海士も殺され、海に投げ込まれた。
私は船を操舵する為に生かされている二等航海士である。
船は現在、ベレンに向けてアマゾン川を目指している。
至急救援を願う。現在位置は西経28度、南緯22度、速力は3.5ノット
海の英雄号より。】
『むむ。これは救助要請の手紙ではないか?!
おい!水兵!いたずらかもしれない、海の英雄号が実在する船か調べてみてくれ!』
『艦長!海の英雄号は実在しやす!イギリスの帆船でやす!
ロイド航海年鑑にも載っておりやすし、現在、マゼラン海峡に向かっているようでやす!』
『うむ。では、本艦は直ちに海の英雄号の救助に向かう!』
『あいあいさー!』
という事になった。
— 2時間後 —
アラグリア号は反乱の起きた海の英雄号を発見する。
威嚇射撃で相手を怯ませ、直ちに乗り移る。
軍艦であるアラグリア号と海の英雄号では戦闘力が違う。
水兵達は、毎日厳しい訓練を受けているので当然なのだ。
件の二等航海士と、反乱に加わらなかった船員を救出し
反乱を起こした者らを制圧するのに、長い時間は必要なかった。
救助された二等航海士のヘッジャーは、コスタ艦長に感謝の気持ちを伝えると共に、反乱の様子を詳しく話した。
しかし、話のほとんどは手紙に綴られており、新しい情報と言えば、船長の飼い犬が殺された事ぐらいだった。
一通り話し終えると、ヘッジャーにはある疑問が浮かんで来た。
『ところで、あなた達はなぜ反乱が起きた事を知ったのですか?
反乱は今朝起きたばかりなのですよ?』
『なぜって君。君が救助の要請を手紙に書き記し、小瓶に詰めて海へ流したのだろう?』
『小瓶?手紙?そんな物は私は知りませんが?』
話が噛み合ない。
コスタはヘッジャーに手紙を見せてみたが、ヘッジャーはさらに首を傾げるだけだ。
『こんな物は私は書いてない。書く余裕なんて無かったのですから。。。』
事件後、海の英雄号とその乗組員はイギリスへ帰還し
反乱を起こした者らは裁判にかけられる事となった。
ところが、その裁判でとんでもない事実が発覚する。
この、海の英雄号。
船名の由来は、16年前にイギリスで大ヒットした小説【海の英雄】に登場する同名の船からつけられた。
この小説の作家はジョン・パーミントンという人である。
パーミントン氏は執筆当時、自書の販売促進の為に何か良いアイディアはないものかと考えた。
そこで思いついたのが、出版に先立ち、小説の文章を無作為に選び、小瓶に詰め2000個海へ流すというものだったのだ。
その瓶は多くの人に拾われ、大いに宣伝効果を上げる事となった。
もうお解りだろう。
1988年5月4日午前8時、アラグリア号の水兵が拾った小瓶こそが【海の英雄】の宣伝のため、パーミントンが海へ流した小瓶だったのだ。
イギリスで流された小瓶が、16年の時を経、ブラジルにまで漂い流れ、16年前に書かれた小説と同じ事件、同じ場所、同じ船名。
また、全部で2000個あった小瓶の中から、その瓶に入っていた内容がまさに救助を求める内容であった事。
さらに、海の英雄号で反乱が起きた日に、絶妙のタイミングでアラグリア号に拾われた事。
これが事実であるから世の中は面白い。
この話は、奇跡と認定しても良いのではないだろうか?